アサシンクリード・オリジンズ/現存しない神殿等の再現についてのメモ ※ネタバレあり

こないだからネタにしている、古代エジプト(プトレマイオス朝)が舞台のゲーム、「アサシンクリード・オリジンズ」。
とても良く出来ているゲームなのだが、それはあくまで「ゲームとしては」という話。細かいところを厳密に見ていくと、わりと「…ん?」な点はある。

たとえば、メインストーリーにもでてくるメンフィスの神殿の外観。



ここで入り口に立っている巨大な像は、トリノ・エジプト博物館が所蔵する、実在するプタハ像である。
元ネタが判るとニヤリとさせられるエジプトマニアがにやりとする仕込みである。…が、この像が実在するものを模しているからとしって、決して「リアリティがある」わけではない。



そもそも、冥界神の像をこんな太陽の光がサンサンとあたるところに置いてはいけない(笑) そして、神殿の外側に主神の神像を置いちゃいけない。神像は、神殿の中の聖なる場所に大切に安置して神官の奉仕を受けるものだ。

ちょっと想像してもらいたいのだが、日本の仏閣で、門の前に仏像が放置されてることがあるだろうか。あるのは神のしもべである狛犬とか狐とか、門番の像ではないだろうか。神殿だって同じなのだ。せめて屋根のあるとこに…置いて…ほしい…。



あともうちょっと細かいことを言うと、背景の神殿の壁画はシーンが途中で切れている。

エジプトの神殿の壁画は単なる模様ではなく「物語」だ。日本でいう絵巻物のように一つの画面の中で複数のシーンが描かれているもので、「捧げものをする人物」がいたら、必ず対面に「捧げられる上位の存在」がいなくてはならない。このお約束を知らないと、場面が不自然に途切れたコピペをしてしまうことになる。



スクショ撮ってあとで見直してみると、けっこうこのテの細かいミスはある。

ヒエログリフの文章とかはちゃんと頑張って作ってる。デモティック記載のパピルスで行頭のフレーズを赤字で記載する、とかおおっと思うようなコダワリもあるかと思えば、その文章自体の切れ目が判らなかったらしくコピペするときに途中でぶった切れていたりする…。監修者は知識のある人がついていたんだろうけど実際のゲーム画面に起こすところまではさすがに見てなかったということなのだろう。

もっとも、そこまで細かく見るのはよほどの物好きだけだ。雰囲気はバッチリなので、細かいところ気にしなければ古代エジプト生活は楽しめる、と思うよ。

…私がこだわりたいだけでな?!


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というわけで、ここからはメインストーリーに絡んでこないエクストラ的な部分についての細かい話になる。

多少ネタバレ要素もあるので、まだメインストーリーでうろうろしている人が見る場合は自己責任で。
(それとも、皆、そろそろクリアした?)

※ゲームシステムについての前提※

・メインストーリーに絡んでくるのは、実装されているマップの半分以下。それ以外のマップは行っても行かなくてもいい。
・クリア後にも世界を旅して回れる
・町や神殿などの"ロケーション"は、近づいてはじめて名前が判明し、マップに表示される。発見前は「?」というマークでしか表示されない
・入ったことのないマップは黒く塗りつぶされていて、マップで生き残るのに必要な適正レベル以外の情報が分からない


※ちなみに※


このゲーム毎回歴史考証は頑張っているが、シリーズを通してSF要素があるので毎回オカルトファンも気に入りそうなネタを仕込んでくる。今回は、ある隠し条件を満たすと スターゲイト が 開くぞ。



そう開いちゃうんだよ! 未知との遭遇! 電波も受信できる!!

…なので「史実に沿ってリアルに作ってある」部分と、「明らかにこれフィクションだよね」という部分が交じり合っているゲームなのだ、と言っておく。


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全ての項目に言及することは出来ないので、ここから先は述べたい内容に搾って現実とゲーム内の違いについて書く。

 ■ゲーム内で触れられている「エジプト」の範囲

 ■ハワーラのピラミッドとアメンエムハト3世葬祭殿

 ■ヘルモポリスのトト神殿

以上3点だ。
これらは、エジプトマニアでなければ気にしないだろう内容及び推しが関係するという点で自分にとって重要な項目となる。

まず

■ゲーム内で触れられている「エジプト」の範囲

これはクリア後に20時間ほどかけて全マップを周り、全体図を表示させてようやく判明した。
ゲーム内で触れられる地域は意外と狭く、エジプト全土の1/3くらいである。

まず序盤〜中盤で訪れる町が集中するナイルデルタ(ナイル川の作る三角州地帯)。
実はここだけでゲームに登場するほとんどの町が入ってしまう。ナイル上流の、いわゆる「上エジプト」の町はほとんど登場しない。マップとしてはファイユームまで。そしてナイル東岸や東部砂漠は何もない。

太陽神ラーの聖地でもあったイウンの町、ギリシャ語で言う「ヘリオポリス」は影も形も存在せず、メンフィス対岸はただの荒野しか見えない。(そして世界の壁に阻まれる)



マップ内では何故かファイユームのすぐ近くにあることになっているヘルモポリスだが、実際はかなりナイルの上流の離れたところにある。



下流のほうやファイユーム周辺もそうだが、このゲームの中の世界地図は現実のマップと比べるとかなり歪んでいる。ゲームの進行にあわせて配置したのだろう。よりリアルな配置の仕方になっているのは、アレクサンドリアとマレオティス湖周辺、ギザ台地とメンティス周辺、ファイユーム湖周辺と、メインストーリーに直接絡んでくる地域で、それ以外はわりと位置がゲームマップの都合で決められている感じだ。



■ハワーラのピラミッドとアメンエムハト3世葬祭殿

次のポイント。ファイユーム近くにある、ストーリーとは関係ない探索マップのピラミッドだ。



ピラミッドとセットで葬祭殿があること、「迷宮」というキーワードからして、これがハワーラのピラミッドなのは間違いない。間違いないのだが、再現されたグラフィックは現存するものとは全く異なる。

何しろ、残ってるのは、これだけだから…。





*出典元はアルベルト・シリオッティの「ピラミッド」


ピラミッドはほぼただの土盛りの山…。なんでこうなったかというと、このピラミッドは日干しレンガを建材に使っている。このピラミッドの作られた中王国時代と、ギザの大ピラミッドが作られていた古王国時代とでは、ピラミッドの作り方が異なる。ピラミッド本体がコスト削減されて崩れやすくなり、そのぶん周囲の神殿などが複雑になっていった時代なのだ。
なので、ピラミッドの外見はギザのものが使いまわしされているが、実際の2000年前の姿は、もっと違っていたはずだ。

ピラミッド前の葬祭殿についても、今は石のカケラと外周の跡しか現存しない。構造が全く不明の神殿の再現になるので、ゲーム内で見られる神殿の様相は、ほぼ空想に基づく根拠の薄いもので「現実は違っていただろう」と言っていい。ちなみにゲーム内では神殿部分が水没していたが、実際は、ここが水没したのは近代である。

だが、再現された神殿はとても美しく、これが現実には存在したことのないものであったとしても自分は気に入った。雰囲気は、同じく現在は水没しているアビュドス神殿のオシレイオンによく似ている。



ちなみに、このアメンエムハト3世の葬祭殿はギリシャ人にとっては観光地であり、ヘロドトスやストラボンによって言及されている。ヘロドトスによると「迷宮」には3000もの部屋があったとされ、ゲーム内で描写された規模よりもはるかに広い。

ギリシャ語で迷宮のことをラビュリントスというが、これはアメンエムハト3世の即位名ニマアトラーがギリシャ語に転化してラバレスとなり、そこから生まれた言葉である、という説がある。つまり、中王国時代に築かれたこのピラミッドと葬祭殿は、クレタ島が元祖のような顔をしている「迷宮」の本当の始まりであるかもしれない。



■ヘルモポリスのトト神殿

全般として頑張っている神殿の再現の中でも、かなり手抜きだなーと思ったのがトト神殿。
ちなみにここも現在は石材のカケラと柱の何本かくらいしか現存しないのだが、わりと近代まで形は残っていたので何枚かのスケッチは残っている。…のだが、その内容は残念ながらあまり反映されていなかった。

アブ・シンベル神殿を実装しようとしたけど実装できなかったのでグラを使いまわしてみました、みたいな謎構造にされている。(ただし神殿外側にいる像はプトレマイオス朝末期の様式になっている)

そして床に…床に神聖な文字であるヒエログリフを書いちゃってる…。



この神殿の中に入ると何故かミイラ作りの儀式をやっているのだが、神殿内での流血はご法度。そうでなくとも閉鎖された空間で人の内臓を処理したりしたら匂いと湿気が大変なことになるはずなので、たとえここがミイラづくりの神アヌビスの神殿だったとしても、このシーンをここに入れるのはNG。ミイラづくりをするならメンフィスと同じように別棟を建てましょう。



知恵神トトの神殿なのに書物があるわけでもないし、遺構からしてあったと思われる医療設備もなかったのでちょっと残念。神殿の門のところにくっついてるこのヒヒの像は、現実世界で辛うじて残ってる、トト神の神獣マントヒヒの像のようだが、柱の上にのっけてしまったためにちょっとギャグっぽくなっている。

というカンジで、ヘルモポリスのあたりは少々「ナンチャッテエジプト」の雰囲気が強い。このゲームは力を入れてる町とそうでない町との差が大きく、ヘルモポリスは、間違いなく再現にあまり力をいれずに実装されてしまった側に入るだろう。







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それから、今回は日本語字幕でプレイをしていたのだが、監修者が見てないっぽい場所についてはちょいちょい、訳ミス? らしきものがあった。

たとえばメンフィスのイベントで聖牛アピスが食べているのは、古代エジプトに存在しなかった「桃」ではなく「プラム」ではないかと思う。それからカタカナ表記がおかしい部分もあり、たぶん「コンソウ神殿」と言われているものは月神コンスの神殿。



有名じゃない神様の名前はわりと英語発音のままカタカナにされてて「ん?」となることがあった。イセトと呼ばれているのは、イシス女神のこと。(古代エジプト語の発音だとイセト/アセトになるが) アミュネットとかアムネトと言われているのはアメン神に対応する女神アマウネト(不可視を意味する)。

もっとも、ゲームのボリュームが膨大なのでそこまで細かくはこだわれなかったのだろう。全般としてはよく頑張ってるしエジプトの雰囲気もバッチリである。ただ、「ゲームはあくまでゲーム」なのだ。



ゲームは、全く知らない人からすれば資料の入り口部分に触れているに過ぎない。現実をモチーフにしたゲームというのは、いわば、現実世界に存在する膨大な裏設定の一部を使って作られたものだからだ。

入り口の奥には、100時間や200時間では到底プレイし尽せない膨大なボリュームを誇る現実世界というエジプト探索ゲーが待っている。リアルオフラインをプレイしたあとなら、ゲーム内の細かい設定も美術のこだわりも、ストーリーに隠されたコアな伏線もきっと今以上に楽しめると思うよ!

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