モラルハラスメントが見過ごされやすい社会構造と『関係性による支配(相手の自由の抑圧)』

広義の精神的虐待である“モラルハラスメント(moral harassment)”は非常に射程の長い概念であり、職場でのパワーハラスメントや異性間のセクシャルハラスメント、家庭での虐待問題、学校でのいじめなども含まれます。モラルハラスメントは、フランスの精神科医マリー=フランス・イルゴイエンヌが提唱した精神的加害の概念です。

モラハラは『抑うつ感・自己嫌悪・希死念慮・対人緊張・楽しみの喪失・摂食障害』などの病的な心理状態や自己評価(自尊心)の毀損、環境の不適応感、生きる意欲の低下の心理的原因(関係的要因)に深く関わっていることも多い問題です。モラハラのやり取りや状況を知ることは、それまで元気だった人がどうしてそのような弱った心理状態・不適応に陥っていったのかを理解するための一助になることがあります。

モラルハラスメント(モラハラ)は『精神的な嫌がらせ』と翻訳されることも多いのですが、その精神的虐待の心理作用を考えると『精神的な支配・間接的な洗脳』『条件反射的な他者の反応の制御』といった側面が強くなっています。そのため、単なる精神的嫌がらせと呼ぶには離脱・抵抗が難しいものであり、“一過性の嫌がらせ・不快なやり取り”ではなく、“持続的な精神的苦痛・自己価値の喪失”に至りやすいのです。

モラルハラスメントの加害者と被害者の区別を外部からつけることは困難であり、『目に見えない暴力』『関係性による支配(自由の抑圧)』に気付くことも難しいことから、今までモラハラは言語化されることもなく、社会問題として共有されることもありませんでした。

というよりも、歴史的・社会的文脈においては、『精神的な嫌がらせ』『上位者(関係者)による善意の指導・教育・干渉』として容認されることも多かったのです。加害者が道徳的に非難されるどころか、反対にちょっとした悪態や注意で傷ついて塞ぎ込んでしまう被害者の側(繊細で弱すぎるメンタリティ)に、責任や落ち度があるとして責められる事のほうが多かったのです。

そのため、配偶者・恋人・上司・友人などから受けているモラハラを、誰かに相談して解決方法を仰いだり仲裁に入ってもらうということもしづらく、仮に支援や仲介を頼んだとしても、『表面的な心配・反省・思いやり(相手のことを真剣に思っているから過干渉になったり不適切な言動で気を引いたりしてしまうといった言い訳)』を示す加害者の側に共感してしまって、結局、被害者の側が説教をされたり、もっとしっかりしなさい(あまり気にしないようにしなさい)といった話で終わってしまうことも少なくなかったでしょう。

モラルハラスメントと社会規範(社会常識)、閉鎖環境(家庭・恋人・学校など)が相互補完的に支えあっているような伝統的な構造があることで、モラハラは社会的あるいは道徳的に問題視されることがほとんど無くなってしまいます。これは、『ドメスティックバイオレンス(DV)・児童虐待・いじめ・しごき(通過儀礼の洗礼)・体罰・パワーハラスメント(パワハラ)・セクシャルハラスメント(セクハラ)』とも共通の伝統的な社会構造を持つ問題であり、“過去の慣例・習慣(秩序維持の必要悪)”“上位者が下位者のために教えようとする情熱(愛情)”によって自己正当化されてきました。

DV(夫婦間トラブルを治外法権とするもの)や体罰(教育指導の名を借りたもの)、虐待(しつけだと主張するもの)の物理的暴力を伴う問題でさえ、社会問題として法律的・教育的に対処するまでにはかなりの時間がかかったのですから、身体的暴力を伴わない精神的暴力のみである『モラルハラスメント』が見過ごされやすいのは当然とも言えます。

しかし、継続的・長期間のモラルハラスメントによって生じる心的外傷(トラウマ)や自尊心(自己肯定感)の崩壊、生きがい(存在意義)の喪失は、時に重症うつ病の心理的原因となったり自傷・自殺の引き金になったりすることもあり、モラハラの危険性は身体的暴力と比べて小さいとは必ずしも言えません。

モラハラを行う加害者は自覚の有無を問わず、以下のような特徴を持っていると考えられています。

1.相手に対する自分の要求や希望、生活リズムをあくまで貫き通そうとする自己愛的(自己中心的)な行動原理。

2.自分ひとりでは有意義な時間を過ごすことができない孤独耐性の低さと見捨てられ不安。

3.他者の内面(気持ち)や事情、苦痛(病気)に対する根本的な無関心と思いやりの欠如。

4.相手に対して優位な立場に立って、相手を間接的な言葉や態度(相手を不安にさせたり罪悪感を感じさせたりする言動)でマインドコントロールしようとする支配欲求。






■書籍紹介

こころの暴力 夫婦という密室で―支配されないための11章
紀伊國屋書店
イザベル ナザル=アガ


Amazonアソシエイト by


BIGLOBEニュースロゴ

ニュースをもっと見る

最近の画像付き記事