「北アルプスが銀座なら、奥秩父はさながら柴又ですね」・・・『春を背負って』笹本稜平著(文藝春秋)

「北アルプスが銀座なら、奥秩父はさながら柴又ですね」
http://gendai.net/articles/view/book/131506

日刊ゲンダイ2011年7月13日 掲載【書籍・書評】【著者インタビュー】

著者初の山岳小説


●「春を背負って」笹本稜平氏(文藝春秋 1500円)





春を背負って
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笹本稜平 文藝春秋発行年月:2011年05月 ページ数:301p サイズ:単行本 ISBN:9784


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 脱サラして、亡き父の奥秩父の山小屋を継いだ長嶺亨を主人公に、小屋を手伝うホームレスのゴロさん、2人に命を助けられた美由紀の3人と、小屋を訪れる人々とのふれあいを描いた山岳連作集である。

「これまでエベレストや標高世界第2位のK2など、厳しい山を舞台にした小説をいくつか書きましたが、今回初めて山そのものを中心に据えました。その意味では、初の山岳小説です。信州・甲州・武州の境にある奥秩父は、標高2000メートルと高い山ですが、昔から商人らが行き来したこともあり、里や人に近い山なんですね。私も若い頃、テントを背負って何度も登りましたが、人を阻むような厳しさがヒマラヤなどのイメージに重なる日本アルプスなどと違って、そこが非常に日本的な山だな、と。歩いているだけで気持ちが落ち着く奥秩父の中で、悩める人たちが元気を取り戻していく、そんな物語です」

 亨が運営する梓小屋を訪れるのは、84歳の登山家、迷い込んだ7歳の少女など年齢も性別もバラバラのワケあり人物たちだ。そんな客人たちが抱えるエピソードを、奥秩父の美しい四季を背景に描いていく。シャクナゲの群生が淡い紅色に染まる春、鮮やかな色彩が山肌を覆う秋……。読者は登場人物と共に、豊かな自然を追体験するだろう。だが、うららかな山も冬は厳しい。第5話「擬似好天」は、近年多い、中高年グループの遭難を描いた作品だ。

「近頃の登山は、まるでスタンプを集めるように日本百名山を巡る傾向があると思うんです。そこにあるのは山を征服するという発想。だけど、山の楽しみ方はそれだけじゃない。ただ山にいることを味わうのもいいものです。言葉では書かなかったけど、そういう楽しみ方を知ってもらえたらな、と。そうすれば無理をして遭難することもないと思いますね」

 登山者が心を開いて接していれば、特に日本的な山は母のように包み込んでくれるのだという。それが結果的に、人々に癒やしをもたらすことにもなる。登場人物たちが元気を取り戻すキッカケも、そこにある。

 他に、殺人容疑をかけられたゴロさんと亨の友情を描いた表題作「春を背負って」など全6編。

「北アルプスが銀座なら、奥秩父はさながら柴又(笑い)。地味だけど、山との共生を感じられる場所です。そこを楽しんでいただければうれしいですね」

▽ささもと・りょうへい 1951年生まれ。2001年「時の渚」で第18回サントリーミステリー大賞と読者賞をダブル受賞。著書に「天空への回廊」「未踏峰」「還るべき場所」など多数。
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春を背負って
文藝春秋
笹本 稜平


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