帰っていく“ところ”――「ランチの女王」再見

「おかえり」――「ただいま」、その言葉に尽きている。テレビドラマ「ランチの女王」。七年前の夏の放送だ。竹内結子、江口洋介、妻夫木聡、山下智久、伊東美咲、山田孝之。今から見れば、そうそうたる布陣といえるだろう。その後に皆、映画・テレビドラマの主役を演じている。

いずれも、とうぜん、若い。なつみ役の竹内の顔立ちは、まだシロウトっぽく、ときにあどけなさすら残り、美しさが熟していない。しかし、それはそれで、演技力が求められるわけで、ときに真に迫る。また、数々のショットではカンペキに、美しい。しかしこのドラマでいくつかの賞を取り、以後数々の作品に出演し、結婚、出産、離婚したのちの、自信に裏打ちされた面貌には達していない。前科があることを隠し、長兄の婚約者であると身を偽り、居候の立場の不安定さ、引け目いっぱいのこのドラマの役は、現在の彼女には似合わないだろう。





八百屋の娘・トマトを演じる伊東美咲は、頼りない痩せっぽちなところばかり目立つ、少女から女になる途中の娘にすぎない。今の、梅酒やロト6のCMの彼女までは、まだまだ遠い。しかし、コック見習いのミノル(山田)に好かれていることを、ほんとうは小さい頃から恋しく思っていた純三郎(妻夫木)に打ち明け、彼が不満そうな態度を取ると、「じゃぁ、私と付き合う?」と、すねるような、挑発するような、ふてた表情は、観させた。いじらしかった。







純三郎も生一本さが強く出て、いや、出過ぎているほどだが、役柄にピタリ適っていた。兄・勇二郎(江口)がなつみと親しげに身を寄せて話しているのを遠目に見て、気をもんでいらだつ身振り。自分たちコックの生き方について、警官に向かって憤りながら言葉をぶつける直情、純真さ……。最終回の夢の場面、兄となつみの結婚式で親族代表としてスピーチするときの、おさえた感情が目の色に、唇に波打つ顔は秀逸だった。そして顔の表情とは別の言葉を放っている演技は、すでに立派な役者で、最後に抑えきれず、「おれは、なつみさんが好きだ。この結婚を許さない!」と口走ってしまうのが当然のように思わせた。ことしのNHK大河ドラマ「天地人」の主役を演じる下地は十分にあったのだろう。しかし、七年経って顔かたちは大きく異なる。(人として、男として目覚めたあとの直江兼続は、真に目覚めた大人の落ち着きにあふれているが、これはまたあらためて)





なつみが夜遅くなって警察から帰ってくると、純三郎が暗い店の中、そこだけ明かりがついた厨房の一隅で、デミグラス・ソースの鍋に向かっていた。なつみが、こんどは家出しないで帰ってきた。

そう。家に帰りたい……。帰っておいでよ、うちは暖かいよ。――みなのセリフの端々にこれが聞かれる。それは、“ランチ”と同じ。何かあると、そこに戻ってくる。その味と温かさを求めて。行けばかならず美味しいご飯がある。それを食べれば、すこし、幸せになれる。

純三郎は言う。「おれは、デミ作って、毎日ランチつくって、――それでいいんだ」。この言葉は重い。ジンセイの真実の一つ。本人はそうと気が付かぬとはいえ、それは覚ったのちの姿に相違ない。



幼い頃、父に捨てられたなつみは言う。「家庭の味か。なーんか、ぜいたくだな」。「ずっとうちにいたいの?」と問われて、「うん、いたい。ここが好き。ここが居場所かもしれない」。「美味しかった。おいしすぎて、おいしすぎて、みんな優しくて、ちょっと幸せすぎる」――。

「迷惑なんか、かけちゃえばいいじゃない。だって、家族じゃないか。うちしかないだろう。あんたみたいに危険な女、引き取るお人好しは、うちしかないだろうが」と、ある時、家出から戻ってきたなつみに、勇二郎のあたたかい声がかかる。



なつみの悪友・修史(森田剛)は、警察が張っていることを予想していたかどうか、約束どおり「キッチン・マカロニ」にビーフカツレツを食べにくる。恵まれない育ち。事件を起して逃亡中の身。自暴自棄になって、むかし好きだった、いや、いまも好きななつみの働く店にやってくる。虚無感ただようその顔つき。きっと、帰りたかったのだ、“ランチ”に……。案の定、警官に取り囲まれる。

捕われて去っていく修史に勇二郎が言葉をかける。

「食べられるよ。また食べに来られるよ。この店はここにあるから。ずーっと、ずーっと変わらないでここにあるから。……待ってるぞ、何年でも待っててやる。食いに来い。だから、がんばれよ」――と。





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