こけしの話(22) 佐藤菊治

 最近のヤフーオークションで何々図録同手として数本のこけしが出品されていた。「同手」という場合、同時期の同様の作品をさすものと思っていたのだが、少々異なるもので無為庵所蔵品が同手の対象にされたので、実物を掲載することとした。



 写真は同手の対象とされた佐藤菊治で、久松旧蔵、「こけしの世界」247番の現物である。同図録では正末昭初とされている。この時期の作品は残るものが少ないようであるが、一側目と二側目とが知られている。二側目の切れ長な目のもは、鼓堂コレクション402番、辞典、系譜に作例が掲載されている。鼓堂菊治は流れるような細い二側目が緩やかに湾曲し、左右の目の傾き具合のアンバランスが微妙な調和となって青根の形を見せる。小原直治の甘味の神秘に対し、鼓堂菊治は辛口の張りつめた情感をみせる。直治にも劣らぬ菊治と無為庵は高く評価しているが、残念ながら、この評価に値する菊治の作例は鼓堂菊治のほかにはほとんどないようだ。鼓堂コレクション図録をお持ちであれば、402番の菊治と他の図録の菊治とを比較していただきたい。二側目の同時期の作品とされるものでも味の相違がかなりあることがお分かりいただけよう。



 左図は上図の頭部正面のアップである。一側目の作例であるが、眼点は下瞼がある二側目と同様の眼点を打ち、眉目の湾曲具合、左右の目の位置バランスなどは鼓堂菊治とさほどの相違はないように思える。にもかかわらず、表情から受ける印象はまるで違ったものになっている。何ゆえにこれほどの印象の違いがでてしまうのか不思議なものである。前述のように鼓堂菊治は隙のない張りつめた表情であるが、左図の菊治は茫洋とした味わいで、何か遥かに思いを巡らしているようだ。二側目では両瞼の間の眼点は画された空間で方向性のある緊迫した視線を持つことになるが、一側目の場合、下瞼が存在しないことにより視線の方向性が弱まり、見る者をして自由な或いは捉えどころのない感覚をもたらすのであろうか。この漠としながら散漫にならず集中力を持つ菊治は無為庵好みにぴったりと嵌る。



                                                       「耳」といわれる鬢飾りであるが、短い鬢に控えめに描かれている。正面から見ると顔の下半分が左右に広がりを持つように見えるが、上半分は眉目の伸びを短い鬢で受け止め、外側の耳でフィナーレとしている。鬢が長く耳が小さいと構図上耳の役割はなくなってしまう。菊治の残るこけしでは鬢の長いものがほとんどであるが、後年の作では耳が描かれなくなってしまう。更に眉目の湾曲著しくなり、味が極端に変化する。孝太郎の影響かとも思われるが定かではない。



 これでもう少し大きいものであったなら、この茫漠とした味がもっと活きたかもしれない。嘉三郎にも通ずる味であるが、嘉三郎がどこか大陸的であるのに対し、菊治は繊細に調和する。(5寸9分)







BIGLOBEニュースロゴ

ニュースをもっと見る

最近の画像付き記事