俳句は何であるかではなく、俳句に何ができるかを問うということ

 虚子は渡欧(昭和11年)の際にフランスの俳人と会い、フランスの俳句が季題を用いないことに触れ、俳句には季題が必要である旨のことを説いている。
 しかし、季題を必須とする論はフランスの俳人らの到底受け入れるものではなかった。

 これをわたしたちは、どう考えるべきか。フランスの俳人らが季題を用いようとしなかったのは、
1 俳句は何であるかをまるで理解していなかったからだ
2 俳句は何であるかではなく、俳句に何ができるかが問題であったからだ

 答えは当然に2であったと思う。2の立場にある者には、俳句が日本の文芸のなかでどうであったかなどということは実作上、何の役に立つものでもない。そして、フランスの俳人らにとっては、俳句という東洋の美人が世界の東の果ての辺境の人々にとって何であるのかということはどうでもよく、その辺境が生んだ俳句という詩魔がフランスで何をするのか、彼に何ができるか、ということがが問題であった、と考えるべきだろう。

 わが国で説かれる俳句論の多くは、俳句は何であるかは説くが、俳句に何ができるかを問い直すことをあまりしない。
 しかし、世界の俳人は、それを問わなければ、自国でなすべきことを見出せない。

 そして、俳句に何ができるか―その答えは、国によってどうこうというよりも、一個の俳人にとってどうか、という問いであるだろう。
 そこで、わたしには、台湾の俳人であるオーボー真悟さんの俳句が興味深い。

 オーボー真悟さんのブログ

   http://oobooshingo.blogspot.com

 に次の記事( http://oobooshingo.blogspot.com/2010/06/0029.html )がある。

  父は逝く大海原を「学の船」(10-06-17)

    Father passed away
    to the boundless ocean
    on the “ship of learning”

    父長逝滄海孤帆「學之船」  (普通話俳句)

    爸返去大海頂頭「學之船」  (台湾語俳句)
 

 この俳句は、台湾語の研究者であり総統文化章(日本の文化勲章にあたる)を受賞された父君のことを詠んだ俳句である。
 なお、オーボー真悟さんは十五歳までは日本語で教育を受けている。

 オーボー真悟さんにとっての俳句とは何であるのだろう。俳句は、オーボー真悟さんに何を可能にしているのだろう。

 1 俳句はオーボー真悟さんに、父君のことを日本語で詠むことを可能にしている。
 2 俳句は短いから翻訳が容易。俳句の英訳はオーボー真悟さんに、父君への思いを世界の英語の読者・聴衆に伝えることを可能にしている。
 3 俳句は短いから翻訳が容易。俳句の普通話訳はオーボー真悟さんに、父君への思いを世界の十三億の普通話の読者・聴衆に伝えることを可能にしている。
 4 俳句は短いから翻訳が容易。俳句の台湾語訳はオーボー真悟さんに、○○○○を可能にしている。

 ○○○○は、何であるのだろう。
 この○○○○をわたしはしばしば思う。そして、一方で、日本の俳人たちはなんとお気楽に、俳句を作っていることか、と思う。美しい日本語とか、美しい日本の山河とかと。
 たとえ日本の俳人に標準語ではなく方言で作句をしている人がいるとしても、オーボー真悟さんが台湾語で俳句を作るときの言語的緊張とは、ほど遠い位置にあるだろう。
 しかし、話者二百万人ほどのリトアニア語の俳句や、中国語の一員と思える台湾語の俳句は、それらを作る人々の母語に対する熱い思い、あるいは愛をその原動力としているように思える。

 母語に対する愛、それがあるからリトアニアの人々は自分たちの俳句を積極的に英語に翻訳するのだろう。
 そして台湾語、中国は二千年前の秦の時代にすでに今のEUに匹敵する国土の統合を実現した多民族国家であり、多言語国家である。
 それを思えば、EUにおけるリトアニア語と同様に、台湾語にも、一国の言語にふさわしい歴史と矜持があってしかるべきだ。
 だとすれば、台湾語と普通話は併存する言語でなければならず、リトアニア語と英語の併存にも似た関係であるのだろう。

 オーボー真悟さんの句に、

  囀りの皆美しく我に無く(10-06-07)
  (母語の無い人々:転々と殖民地として盥回しされ母語を禁止されし人たち)

  母の言葉で詠もう世界の俳句(10-05-15)

  母の言葉で詠もう世界のHAIKU(10-05-15)

  母の言葉で詠もう皆の俳句(10-05-15)

  母の言葉で詠もう皆のHAIKU(10-05-15)

  国あって国で無いてふ国のあり (10/04/05)
  (20〜21世紀の地球の孤児)

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