映画評「細雪」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1983年日本映画 監督・市川崑
ネタバレあり

谷崎潤一郎が戦中から戦後にかけて発表した大長編の8度目の映像化、3度目の映画化で、本作が決定打となったせいか、その後は一度も映像化されていない。


大坂船場の豪商蒔岡家の四人姉妹、鶴子・幸子・雪子・妙子の人生行路の物語で、次女・幸子(佐久間良子)が貞之助(石坂浩二)を婿に迎えて分家し、大人しいが芯の強い雪子(吉永小百合)と進歩的で問題の多い妙子(古手川祐子)とを引き取り、本家(鶴子=岸恵子)とのしがらみの中で夫々を独立させる為に苦労する人生模様を綴る。
 特に電話にも出られない控え目な雪子に度々見合をさせ、遂に華族の男性と結びつけるまでを丹念に描いている。


舞台は戦争の影の忍び寄る昭和13年から数年間だが、平時と殆ど変らぬ、上流生活の風雅が我々を絵巻の世界に誘う。「源氏物語」の現代語訳も為した谷崎だけに、平安絵巻ならで昭和絵巻と言うべし。

「細雪」映像化史上最も豪華な女優陣が美麗な着物を着込んでいるのを観るだけで既に満腹感があり、関西各所を舞台に日本的情緒をじっくり盛り込んだ撮影も格調高く、豪華日本料理をフルコースで御馳走されたような気分になる。


演出的には、冒頭の会話を捉えた撮影が大変印象深く、ここで早くも映画のムードを決定している。
 クロースアップで会話する人物を正面から捉えて切り返すという手法はただのクロースアップにあらず、即ち主観ショットの切り返しとなり、実際に四人姉妹と貞之助はWの形に座っているので顔をはすにして会話しているはずなのを敢えて感じさせず観客を絵に引き込ませる。クロースアップはその後も多く使われて、この冒頭の人物の大胆な捉えが直情的に人物を取り上げるという市川監督の宣言のように取れるのである。


また、貞之助の雪子への思いをかなり前面に出す一方で、割れた着物から見える下肢、帯が鳴る様子等、ディテールに拘り、巨視的にも微視的にも谷崎流の耽美を最もうまく具現できた「細雪」の映画化ではないかとも思う。

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